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放射線計測一般

核放射線および粒子

低および中エネルギー核物理においてもっとも広く研究さ れている核放射線および粒子はX線,ガンマ線,電子, 陽電子,陽子,中性子,アルファ粒子,核分裂片である。
なお、 詳しくはここを参照されたい。

ガンマ線およびX線

ガンマ線およびX線は1種の電磁放射線である。ガ ンマ線,X線は静止質量を持たずエネルギーに無関係な tex2html_wrap_inline406 cm/secの一定速度をもつ光子である。 またそのエネルギーは通 常はっきりと決まった値をとる。X線とガンマ線の 差はその放出の原因により区別される。X線は原子殻 中の電子の配置が変る時に放出されるものであり,そのエ ネルギは大体0〜120KeVの間にある。ガンマ線は原 子核から放出されるもので,そのエネルギーは高く数MeV にまで達する。

光子は物質と作用してその全エネルギーあるいはエネルギー の1部を電子に与えたり,あるいは高エネルギーにおいて は電子,陽電子の対を作る。光電効果,コンプトン 散乱,電子対生成の3種の過程があって,X線およびガ ンマ線の検出と分析に重要な役割を果す。

電磁放射線

光子の比電離能は電子の比電離能の1/10〜1/100しかなく,し たがってガンマ線およびX線の直接検出には比電離能が小さすぎて実用 的ではない。しかし,幸に,電磁放射線 はそのエネルギーを荷電粒子に移し,その荷電粒子が電離 作用をおこして検出されるという別の機構がある。

この機構はa)光電効果,b)コンプトン散乱,c)電子対生成 である。これらの効果による相互作用がおこる確率 は通常断面積で表わされる。図1は光子の検出に 重要な2種の物質,ゲルマニウム(Ge)とシリコン(Si) に対する断面積を示す。

光電効果

 
光電効果においては,放射線の全エネルギーは光電子の運 動エネルギーから電子が原子あるいは分子に結合するエ ネルギを引きさったものとして表わされる。原子の残 りが運動量を受け取るので,運動量の保存が可能に なる。

光電効果が低エネルギーガンマ線およびX線の物質との相 互作用の主な機構である。光電効果の断面積はエネ ルギーとともにE tex2html_wrap_inline408 に従って急速に減少し,最後にE tex2html_wrap_inline410 に 比例する。吸収体物質(検出器)のKの結合エネルギー より大きなエネルギーの光子に対して,光電効果が主に(80%) K殻で発生する。

この理由により,K,L, tex2html_wrap_inline412 電子の光子エネルギーにおいて 鋭い不連続性を示す。光電断面積は,吸収体の原子 番号をZとすると,Z tex2html_wrap_inline414 に比例する。

コンプトン散乱

光子のエネルギーを測定するために,光電子の全電離を測 定する必要がある。コンプトン散乱において,光子 はそのエネルギーの1部を電子(束縛されていようが自由 であろうがどの電子にも)に移す。散乱された光子 は最初の走路からはずれるが,その残りのエネルギーを 保持したままで進む。運動量およびエネルギーの保存 則から,散乱角およびエネルギー損失の関係が導かれる。 すなわら,コンプトン散乱は等方的ではない。

コンプトン散乱の断面積は0.5MeV以上のエネルギーに対し てZに比例し,また,E tex2html_wrap_inline416 に大体したがって減少する。 したがって,この過程は0.6〜4MeVのエネルギーにおいて 主要なものになる。

電子対生成

電子対生成は1.02MeV以下のガンマ線エネルギーに対して は起らない。電子対生成においては光子のエネルギーは 1対の電子・陽電子に与えられた運動エネルギーおよび静 止質量エネルギーとして表わされる。電子対生成の断面積 はZとともに増大し,4MeVまでEとともに鋭く増大し その後,ガンマ線エネルギーの対数に大体比例する。電 子対生成は高エネルギーガンマ線に対して主要になる。
なお、 原子や組織の光子反応断面積についてはここを参照されたい。
 

検出器

検出器は,そのもっとも広い意味において,核放射線あ るいは粒子が存在することを何かで示さなければならない。 感光乳剤,泡箔,シンクロスコープも検出器と考 えられる。しかし,放射線計測の分野では,検出器は 核放射線あるいは核粒子のエネルギーを電気信号に変換す る装置と定義されている。

シンチレーンョン検出器

固体あるいは液体の蛍光物質は,荷電粒子が蛍光物質に 入り電離を生じたとき,粒子の失なった運動エネルギーの 1部を光に変え放出する。

この光が光電子増幅管(photomultiplier)の最初の受光電 極にあたると光電子を作る。この光電子は第1 ダイノードに印加されている100V以上の電圧により加速 されて,それぞれの光電子が数個の2次電子を作る。 この2次電子がさらに加速されて次のダイノードにあた り, tex2html_wrap_inline418 と次々に2次電子を作る。

10箇のダイノードを持つ光電子増倍菅においては,最初 の光電子の電荷が tex2html_wrap_inline420 あるいは tex2html_wrap_inline422 倍に増倍される。し たがって,その出力電気信号はスケーラを直接に動かす のに充分な大きさになることもある。しかし,大低 の場合には外部に比例増幅器を使用する。

良いシンチレーション検出器を作るには,蛍光物質と光 電子増倍管の組み合せに注意を払わねばならない。蛍 光物質はガンマ線を良く吸収するように高い密度を持ち 低エネルギーの相互作用を検出できるように高い光効率を 持ち,高計数率測定ができるように短かい光の減衰時間 を持ち,光を良く透過させ,適当な光の屈折率を持って いる必要がある。

光電子増倍管は蛍光物質の放出する光のスペクトルに適 合したスペクトル感度を持っていなければならない。 また,全ホトカソード面にわたって一様な感度を持ち, そのホトカソード面は蛍光物質の表面と等しい寸法でな ければならない。べータ粒子,ガンマ線計数に用いら れる蛍光物質には4種類ある。NaIのような無機結 晶,アントラセンやスチルべンのような有機物質,プラ スチック蛍光体,液体蛍光物質がある。

[無機結晶]

蛍光物質としての無機結晶の主な特長は密度が高いこと と原子番号の大きいことである。この2つの特長が ガンマ線の検出に適している。一番よく用いられるの はNaIであり,直径 tex2html_wrap_inline424 ,高さ tex2html_wrap_inline426 の単結晶まで成長させる ことができる。NaIは光効率が高く,光の減衰時開は0.25 tex2html_wrap_inline428 sec である。NaIは非常に吸湿性が大きいので,そ の結晶は封じ込まねばならない。NaI結晶は大変割れ 易く,温度勾配や熱衝撃の影響を受けやすいので注意す る必要がある。

CsIはNaIよりも密度が高く原子番号も大きいので,高エ ネルギのガンマ線の検出に適している。光出力はNaI の45%しかなく,光の減衰時間は4倍も長いが, NaIよりも軟かく,より弾性に富んでいるので,温度 勾配や温度変化,激しい衝撃,加速,振動に耐えること ができる。


システムの概要

2tex2html_wrap_inline430 線スペクトル測定システムの構成を示す。

tex2html_wrap_inline432 線源からは種々のエネルギーの tex2html_wrap_inline434 線が常時放射されている。 この tex2html_wrap_inline436 線が1個検出器に入射して検出されると検出部はその tex2html_wrap_inline438 線の エネルギーに比例した波高のパルス状信号を1個発生する。 この出力信号は利得の安定な増幅器で増幅され,ピークホールド回路で ピークホールドされる。ピークホールドされたパルス信号はA-Dコンバータ (以下,ADCと略す)に送られ,ADCによってそのパルス波高に比例した8ビットの ディジタル量に変換される。即ち,8ビットのディジタル変換であるため 256チャネルにエネルギーを分析することができる。 このデータをパーソナルコンピュータによって収集し解析した後, CRTディスプレイまたはプリンタに出力する。このデータ収集,解析,CRT出力および プリンタ出力などは全てプログラムによって制御する。

  

図 2: システムの構成

検出器

検出器はシンチレーター(蛍光体)と光電子増倍管よりなる。
放射線がシンチレーターに入射してその中でエネルギーを失うと,その失った エネルギーにほぼ比例する光(紫から紫外にわたる光)を放出する。 この光を光電子増倍管で電気的パルス信号に変換する。

3にシンチレシンチレーション検出器の原理図を示す。

  


図 3: シンチレシンチレーション検出器の原理図

前置増幅器とピークホールド回路

基本的な回路図を図4に示す。

光電子増倍管より出力されたアナログパルスは前置増幅器により電圧・電流増幅され, ピークホールド回路に信号を送られる。

5K tex2html_wrap_inline442 の可変抵抗によりこの増幅率を変化することができる。 アナログパルスの波高をA-D変換するためには,変換が終了する時間その波高値を 保持(ホールド)する必要がある。この回路の基本は,デカップリングダイオード (D tex2html_wrap_inline444 )とホールドコンデンサ(C tex2html_wrap_inline446 )で構成される。A tex2html_wrap_inline448 のオペアンプは C tex2html_wrap_inline450 の充電電流を確保するための電流増幅を行っている。 ホールドコンデンサに充電された電圧を保持しながら読み出すための 高入力抵抗バッファの役目をしている。 A tex2html_wrap_inline452 のオペアンプは入力信号とホールドされた出力信号との比較を行っている。 ホールドされた出力信号はADC-INPUTにつながれると同時に減衰器VR tex2html_wrap_inline454 を 通してコンパレータA tex2html_wrap_inline456+入力に入る。一方,A tex2html_wrap_inline460-入力は ホールドされる以前の信号A tex2html_wrap_inline464+入力と結線されており,先の信号と 比較される。このためA tex2html_wrap_inline468 の出力は入力信号がホールドされていない場合は Lowとなり,ピーク電圧がホールドされてくるとA tex2html_wrap_inline470+入力は徐々に 高くなり,-入力より高くなった時にHightのディジタル信号を出力する。 この出力は微分回路を経てCONVERSION START信号として用いる。 この信号をADCが受け取り,A-D変換後の tex2html_wrap_inline476 信号により ディジタルスイッチがONになり,デカップリングダイオードをショートさせ ピークホールドを終え,1サイクルを終る。

  


図 4: 前置増幅器とピークホールド

A-Dコンバータ(Analog Digital Converter)

通常、放射線計測には微分特性を良くするため、積分型と呼ばれるがA-Dコンバータ用いられるが、 ここでは、簡単に手にはいる逐次比較型のA-Dコンバータについて説明する。 この回路は原理的には図6 に示す逐次比較型のA-Dコンバータで, 構成はD-Aコンバータ,コンパレータ,逐次比較ロジックおよび コントロールロジックから成る。

コンパレータの入力に被A-D変換電圧を加える。一方,D-Aコンバータには 大きい値から小さい値に向かうデジタル値を与え,この出力電圧と 被A-D変換電圧とを逐次比較して等しくなった時のデジタル値を ラッチを通して出力するものである。

ピークホールド回路よりCONVERSION START信号をADCの tex2html_wrap_inline482 に受け取ると, ADCはピークホールドされた出力を読み込みデータをディジタルに変換し, tex2html_wrap_inline484 の信号を出力する。この信号は負論理であり PPI(プログラマブル ペリフェラル インターフェース: tex2html_wrap_inline486 PD8255)の tex2html_wrap_inline488 (PC tex2html_wrap_inline490 )で受け取ることができる。

  
図 7: ADC周りの回路図
ピークホールド回路より出力されたCONVERSION START信号によりADCを スタートさせ,ADCは約110 tex2html_wrap_inline498 secの変換時間を経て tex2html_wrap_inline500 信号を出力し,デジタルに変換されたデータを PPI(8255)のポートAに送る。この tex2html_wrap_inline502 信号を tex2html_wrap_inline504 (PC tex2html_wrap_inline506 )で受け取り,ポートAは8ビット変換データを 入力し,ラッチする。これと同時にIBF(PC tex2html_wrap_inline510 )がセットされる。 コンピュータ側ではこのIBFを監視することによって データの有無を判定できる。IBF信号は,コンピュータが データを読み終えるとリセットされる。

Shozo_Hongo
2002年06月12日 (水) 13時38分28秒 JST